2025年04月19日

【News LIE-brary】 水舟市で見つけた、ささやかな謎と甘い罠――「小市民」と「小佐内さん」という名の風物詩を追って

旅人の皆さん、こんにちは。春風が心地よいこの季節、私は古き良き港町の面影を残す「水舟市（みずふねし）」を訪れています。この街には、ガイドブックには載らない、しかし地元の人々の間で密かに語られる「名物」があるという噂を耳にしました。それは特定の建造物でも、絶景でもありません。なんと、「人物」なのだそうです。それも二人組。「小市民」を目指す青年と、「小佐内さん」と呼ばれる少女。まるで物語の登場人物のような呼び名ですが、彼らは確かにこの街の日常に息づいているというのです。好奇心に駆られた私は、旅の傍ら、この不思議な二人組の影を追ってみることにしました。

水舟市に滞在中、私が最も頻繁に彼らの噂を耳にしたのは、意外にも甘味処やカフェでした。特に、季節限定のスイーツが登場する時期になると、彼らの目撃情報が急増するというのです。聞けば、「小佐内さん」は大変な甘党で、新作スイーツには目がないのだとか。そして、彼女の隣には大抵、「小市民」こと、どこか達観したような、それでいて常に周囲を警戒しているような雰囲気の青年がいる、と。

「ああ、あの二人かい？ 春になるとよく見かけるねぇ」と、老舗和菓子屋の店主は目を細めました。「特に桜餡を使ったお菓子が出ると、小佐内さんの目の色が変わるんだ。隣の彼は… なんというか、彼女の情熱にやれやれ、といった顔をしながらも、しっかり一番良い席を確保したり、限定品が売り切れないか妙に気を配ったりしている。ただ静かに過ごしたいだけなんだろうけど、どうにも彼女に振り回されているように見えるねぇ。いや、もしかしたら彼も楽しんでいるのかも…？」

「小市民」を名乗る彼の本質は、どうやら「平穏」を希求する点にあるようです。目立たず、騒ぎを起こさず、ただ日々を恙無く過ごすこと。それが彼の理想。しかし、彼の隣には常に「小佐内さん」という、ある種の「嵐」を呼び込む（あるいは、嵐の中心に自ら飛び込むことを厭わない）存在がいる。このアンバランスさが、彼らの周りに奇妙な引力を生み出しているのかもしれません。

先日、駅前の人気パティスリーで開催された「春の苺フェア」でも、彼らに関する興味深い出来事があったと聞きました。フェア限定、一日20個のプレミアム苺タルト。開店前から行列ができていたその日、最後の一つを巡って、ちょっとした騒動が持ち上がったそうです。二人の女性客が、ほぼ同時に最後の一つに手を伸ばした。どちらが先だったか、店員も判断しかねる状況。店内には険悪なムードが漂い始めます。誰もが固唾を飲んで見守る中、列の後方にいたはずの「小佐内さん」が、ふわりと、しかし確信を持って呟いたというのです。

「あら、そちらのタルト、右側の苺のヘタが少し黒ずんでいませんこと？」

その一言で、場は一変。手を伸ばしていた女性の一人が、反射的にタルトを凝視し、僅かに手を緩めた。その瞬間、もう一人の女性がタルトを確保。安堵と気まずさが入り混じった空気の中、小佐内さんは満足げに（しかし、あくまで上品に）微笑み、隣にいた「小市民」は、まるで「ああ、また面倒なことに…」とでも言いたげな深い溜息をついていたとか。

後で確認したところ、苺のヘタに異常はなかったそうです。つまり、小佐内さんの一言は、場の膠着状態を打破するための、巧妙な「ブラフ」だったのではないか、と。彼女の観察眼と、瞬時に状況を有利に運ぶための知恵（あるいは悪知恵？）。そして、その結果として生じる波紋を、隣で静かに受け止め、あるいは最小限に抑えようと立ち回る「小市民」。まるで、計算され尽くした二人芝居を見ているかのようです。

「小市民」は、決して自ら謎に首を突っ込むタイプではない、と誰もが言います。むしろ、面倒事を誰よりも嫌い、日常に潜む小さな棘からも距離を取ろうとする。しかし、彼の持つ妙な「巻き込まれ体質」と、隠そうとしても隠しきれない観察眼、そして隣にいる「小佐内さん」という触媒の存在が、彼を否応なく「日常の探偵」のような役割に引きずり込んでしまうのかもしれません。

水舟市を歩いていると、ふとした路地裏や、港を見渡せる公園のベンチ、静かな図書館の片隅で、彼らのような二人組を見かけることがあるかもしれません。片方は、甘いものを愛でるように、あるいは何か企むように、きらきらと目を輝かせ。もう片方は、やれやれと肩をすくめながらも、その隣を離れようとはしない。

彼らは、この街の景色に溶け込む、一つの「風物詩」なのでしょう。刺激的な大事件は起こさない。けれど、彼らの周りでは、日常という名の水面に、小さく、しかし確かな波紋が広がり続ける。それは、旅人である私にとって、この水舟市で見つけた、ささやかで、忘れ難い「謎」であり、「魅力」なのです。次にこの街を訪れる時、彼らはどんな「物語」を紡いでいるのでしょうか。また、甘い香りに誘われて、彼らの影を探してしまいそうです。